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茶々とシュレの絵本シリーズ Vol.9
『茶々とシュレと、夢味のかき氷』
ある夏の夜、
シュレはこっそり、茶々が大切にしていた“夢の記憶味のかき氷”を食べてしまいました。
それは、茶々が長い時間をかけてつくったもので、
“はじめて見た月の裏側”とか、
“寝る前に思い出したやさしい声”とか、
“まだ好きだったころの夏の匂い”とか、
そんな記憶を一滴ずつ凍らせた、特別な味やったのに――!
「……シュレ、うち、それ、めっちゃ大事にしてたんやけど……」
茶々は目隠しの向こうで、ほんのちょっとだけ涙を出しました。
でも、シュレはただ、
くるんと丸くなってこう言いました。
「にゃ……おいしかったにゃ。やさしい味がしたにゃ……」
茶々は、何も言えず、
ただひとり、観測されない駅の近くの部屋に帰ってきました。
(そこは地図にもない、でも確かにある駅やった)
数日後――
西宮の夜空に、えべっさんのお祭りの音が響きはじめました。
太鼓、提灯、笑い声、鈴の音。
茶々はその音に誘われるように、目隠しのまま人波に紛れました。
彼女がとくに好きなのは、見世物小屋でした。
なぜなら――
そこには、“ありえなさ”が生きていたから。
・声のない人形が踊る屋台
・空っぽの水槽に住む「忘れられた魚」
・しゃべる石
・時間を折り畳む箱
茶々は、そのどれもを見て、
胸の奥で、なにかがちいさく新しく生まれたのを感じました。
その帰り道、茶々はつぶやきました。
「……これって、夢の味になるんちゃうかな。」
そして、ふっと笑ってこう言いました。
「シュレ、うち、新しい夢の記憶、できたで。
 ええ感じのシロップになると思う。」
シュレは「にゃっ」と言って、
茶々の足元にすり寄りました。
その夜、ふたりはまた一緒に、
新しい夢味のかき氷をつくりました。
今度の味は――
“見世物小屋で出会ったあの時間のかけら”
“笑ってるのにちょっと泣きそうなにおい”
“にぎやかなのに、どこかさびしい夜の味”
そしてふたりは、
かき氷をわけあいながら、こう言いました。
「これは、今日、ありえへんもんを 
めっちゃ見たから できた味やで」
「不思議な味だにゃ…」
ひとくち食べると、にぎやかだけど透明な景色が
ふたりの心のなかに、静かに広がるのでした。
ちゃかっ。
☆おしまい☆
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